極小の補聴器をめぐるマイスター その技術の深淵に迫る ③
ミリ単位の緻密で繊細な世界、同時に合理的な大胆さも必要
組込マイスターは、設計図の意図を汲んで小さなシェルに必要な部品を組み込んでいく専門家である。その作業は極めて緻密。顕微鏡を覗きながら、スーパーミニカナール極の場合1円玉にも充たない大きさのシェルに、米粒のようなサイズの3部品(DSP(注)、マイクロホン、イヤホン)をピンセットで入れていく。部品同士が触れてしまうとショートしたり、ハウリングの原因になったりするため、配置は的確かつ繊細に行う必要がある。
「スーパーミニカナール極は、限界まで小さくするために設計図が非常にタイトに作られています。気合を入れて力んでしまうとすぐにリード線が切れたり、部品が壊れたりしてしまいます。最初のうちはこの力加減が掴めなくて、一生懸命にやればやるほどボロボロにしていました」
こう話すのは組込マイスターの赤塚春海。緻密な作業ゆえ誰でもできるものではない。他の補聴器の組込は上手にこなせるが、スーパーミニカナール極までいくと小さすぎて対応できないと白旗を揚げるエンジニアもいる。そんな中、赤塚は持ち前の手先の器用さを発揮して順当にステップアップしてきた。組込では3つの部品を繋ぐリード線にも注意しなくてはいけない。このリード線の存在は設計図には加味されていないからだ。設計図通りに配置してみるとリード線が届かないという事態も時々起こる。そんな時、合理的なレイアウトに配置しなおし、設計図以上に小さく仕上げるのが組込マイスターの真骨頂である。しかしながら、組込マイスターもまた、天賦の才さえあればいいというわけでもない。
「機種ごとに気をつけるべきポイントを決めていて、その部分を意識するようにしています。“この機種はイヤホンの角度に気をつけなきゃハウリングする”“この機種はテグスに注意”といったように。スピードも必要ですから、それぞれの機種で求められる厳密さを判断して手際良く作ります。このような傾向と対策は経験から学びました」
組込後、蓋をして測定をするまでが守備範囲。1台にかける作業時間は大体30~40分ほどで、難易度が高い場合は1時間程度かかる。
「設計図を見れば、名前を見なくてもどのスタッフがモデリングしたのか大体わかります。特徴が出るんですよね。特に、難易度が高ければ高いほど『なるほど、このようにレイアウトすればこんなに小さくできるんだ、いいアイデアだな』と感じ、やってやろうとワクワクします」
取材・文/高橋 美由紀
- 本記事は「RION Technical Journal Vol.6」から抜粋しています。
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